耐震性を強化、ハザードマップを確認
首都直下地震 今一度備えを
1月1日に発生した能登半島地震では木造住宅の倒壊が目立ち、道路が寸断され、がけ崩れが至る所で発生した。激しい揺れと地盤の液状化が甚大な被害をもたらした要因と推測される。阪神大震災(1995年)や熊本大地震(2016年)と同じように震源地が浅い直下型地震の怖さをまざまざと示した。東日本大震災(2011年)以降進む建物の耐震化と被害を予測するハザードマップに対応した対策の大切さを今回の地震で改めて認識しなければならない。建物の耐震性などを計算する構造設計一級建築士で建物の構造計算などに詳しい構造設計室ラ・クレ(青梅市新町)代表の髙野一樹さんに話を聞いた。(岡村信良)
西多摩の地盤は比較的良いが 6強、7への備え万全に
構造設計一級建築士 髙野一樹さんに聞く
‐構造設計一級建築士とは。
髙野「2005年にあった構造計算書偽造事件を受け、翌年改正建築士法により、構造設計一級建築士制度が創設された。一定規模以上の建築物の構造設計については、構造設計一級建築士が自ら設計を行うか若しくは構造設計一級建築士に構造関係規定への適合性の確認を受けることが義務付けられた。建物の耐震性が基準を超えているかを計算するものだ」
‐耐震性を高くするには。
髙野「木造建築の場合は、梁と柱を金物で接合する。柱と柱の間に筋交い、または合板の耐力壁を入れる。壁の量を増やす。土台をアンカーボルトで固定するなどだ。壁は量と共に一つの面に偏らないなどバランスも大事になる」
‐能登半島地震の被害を見て感じることは。
髙野「1981年の新耐震基準前に建てられた木造の古い建物の倒壊が多い。瓦屋根に土壁の家が目についた。日本海の冬風に耐える重い瓦で、瓦を固定するために土で葺いているので、なおさら重くなる。地震の揺れは慣性の力で、重いものほど大きくなる。屋根が重く、大きく揺れやすい建物も多かったように見受けられる。新耐震基準以降の家屋でも、阪神淡路大震災以前のものは壁の配置バランスまでは考え切れていないので、被害を受けているようだ」
-耐震基準をクリアした建物なら大丈夫なのか。
髙野「設計や施工に瑕疵がなく、耐震基準(壁の量・バランス・金物での固定)を満足させていれば、震度6強や7の揺れでも『倒壊』はせずに、居住者の避難は可能になる。その意味では命は守られる。ただし、建物に全く損傷が無いということではない。歪みやひび割れの被害はあり得る。あくまでも『倒壊しない=潰れない』ということだ。付け加えれば、耐震基準は一度の地震について想定している。能登半島ではここ数年の間に何度も震度5、6の地震が発生し、建物はその度、揺すられてきた。蓄積したダメージもあり、被害を拡大させた可能性が高い。併せて木造家屋や中低層建物の全壊や倒壊を引き起こしやすい周期の地震波が発生したことが確認されており、被害を拡大させた可能性も指摘されている」
‐液状化・地盤の変形については。
髙野「輪島市などで液状化が確認されている。珠洲市で被害が大きかった所は河川による堆積平野にあり、地盤が軟弱で地震の際に揺れやすい。道路が波打つように破壊され、被害を受けていない家屋を見つけるのが難しい状況だ。半島の北岸では海岸の隆起も確認されているので、垂直方向の揺れも大きな影響を与えた可能性がある」
‐青梅市をはじめ西多摩地域の地盤はどうか。
髙野「川などの水辺の近くや元田んぼだった緩い地質の地域の揺れは大きくなる傾向が強い。それでも多摩地域の地層は砂礫層が厚く、その上に硬めの粘性土である関東ローム層にも厚く覆われており、比較的地盤はいい。山間地に近い西多摩の地盤はより揺れに強いと言えよう。他県から東京都に移住を考えている人たちに、青梅市をはじめ西多摩は比較的地震に強い地域としてPRしても良いのではないかと思う」
‐西多摩地域も震度6強、6弱などの大地震にいつ襲われるか分からない。建物の耐震補強とハザードマップの確認、避難所の確認、自助努力でできる食糧や防災グッズの備えをしっかりしていきたい。
■髙野一樹さん
早稲田大学建築学科、同大学院を卒業。都内設計事務所の勤務を経て、独立。構造設計室ラ・クレ代表。株式会社グッド・アイズ建築検査機構 耐震判定委員会委員