あきる野市小中野の秋川渓谷に溶け込むラグジュアリーヴィラ風姿が2度目の春を迎える。春夏秋冬、季節ごとに肌触りも、音も、かおりも違う風で訪れる客を迎えている。(岡村信良)
立地、建物、室内、しつらえ、食事、サービス…、すべてにこだわりぬき、磨き抜いたヴィラ。1日1組を迎え、要望に沿った旅を提供し、一生の思い出をつくってもらう。13時〜翌15時までの26時間滞在で、1泊2〜3食付2名55万円。それでも訪れた人の多くに認められ1年を迎えようとしている。
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東京の西端にすべてが異次元で、驚きのホテルの出現。その背景にはどんな大仕掛けがあるのかと誰もが思った。だが、発端は単純で人間的だった。
2020年2月、新型コロナウイルスが全国に広がりはじめ、対策として行動を自粛し、密を避けることが求められた。飲食店では客が途絶えた。黒茶屋グループは突然稼ぐ手立てを無くした。しかも社長の高水謙二さんはそのとき、大病に襲われた。
絶望感に覆われた。ある本にあった言葉が目に止まった。「幸運は不運の姿をしてやってくる」。自分の置かれた現実と重なった。真っ暗闇の中でわずかだが光を見た。前を向く気持ちになった。「どうせやるなら面白いことをやろう。証として残せるものに挑戦したい」と思った。
秋川渓谷の岩瀬峡に臨む黒茶屋の敷地の先に、秋川渓谷にあって唯一と言ってよいほど施設を建てられる広い土地があった。神様は掛け替えのない宝物を元々与えてくれていた。
「ここにヴィラを建てる。1日1組に最高のおもてなしをするヴィラだ」。そう思った途端、構想はあっという間に頭を巡った。
世界的建築家である手塚貴晴氏に希望を語り、新しいものを見た子どものように身を乗り出して計画を進めた。コロナ禍の先行きが見通せない出発だった。
紆余曲折、2年半の準備を費やして2024年3月に開業した。風姿の目標を立てた。「1日1組の宿と言われる分野において世界に認められるホテルにする」「携わるスタッフがお客様の感動、喜びを共有し、仕事を通じて人生を楽しみ自らも成長する」「黒茶屋グループ全体の観光ブランド力を高める」「願わくばあきる野市全体の観光ブランド力を高める」。
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シンプルで美しく、風のぬけるような建物は渓谷に溶け込み自然と共生する。最も特徴的なアウトドアリビングは窓を取り払い自然の只中に佇んでいる感覚になる。部屋の中央のジャグジーは常時、温かいお湯で満たされている。
建築材や家具も本物にこだわった。家具・しつらえはすべてオリジナル。100年後の人が見た時にも美しい、古びた美学を追求した。
食事は、グループ総料理長が専属で担当。食材は土地の物を厳選。調理方法に創意工夫を凝らし、目の前で調理するライブキッチンを効果的に取り入れ、今ここでしか味わえないご馳走を堪能してもらうことに心を砕いている。季節感あふれる唯一無二の趣向は都心の高級料理店でもできないものだ。
スタッフはお客の一生の思い出となるおもてなしに注力する。高水さん自ら茶を点て茶道に浸ってもらうことや、オプションになるが能の体験も用意した。
11月、シンガポールで「2024世界建築祭」が開催された。1000以上の候補の中から「風姿」はスモールアーキテクチャー部門で1位、ホテル・ヴィラ部門で2位になった。世界が認めた。
高水さんは「建物は認められたが、一流のヴィラとしてまだまだ研鑽を積まなければならない。すべてはお客さまの感動の為に」と語っている。
■ 風姿 あきる野市小中野177‐1☎ 042(588)5311。■食事プランランチ・ディナー=4万4000円(税サ込)。料金は1名の料金、最大6名まで。利用可能エリア= アウトドアリビング・ テラス・ダイニング。