武蔵五日市から西方に向かう檜原街道を十里木の信号で離れ、養沢川に沿った道を北上すると、ほどなく左手の谷合に臨済宗のお寺「徳雲院」が見えてくる。広い境内や周辺は梅の木100本を超える梅林になっており、早春には白やピンクが霞のようにたなびき、梅の香に包まれる。3月中旬から4月上旬が例年の見頃。広い梅林を持つ寺としては、あきる野市はもとより、西多摩でも屈指といえよう。梅の木の根元には白い可憐なアズマイチゲの花が咲き、合わせて目を楽しませてくれる。境内沿いには養沢川が流れ、夏のホタルも良く知られている。
徳雲院は戦国時代の開山。元は対岸の山の麓にあったといわれる。境内には江戸時代の石碑など歴史を感じさせるものがある一方、長崎平和祈念像で知られる北村西望102才の時の書を刻んだ現代的な姿の慈母墓観像、近くの小宮小学校でかつて教師を務めた地元ゆかりの歌人三ヶ島葭子(みかじまよしこ)の歌碑(平成21年落成)と、最近のものも多く、今に生きる寺を感じさせる。境内には座禅の奨めで有名な先代住職加藤耕山が95才で他界する直前の筆による「喝」の1字を刻んだ石碑もある。他界直前とは思えぬ力に満ちた字だ。