JR青梅線「沿線まるごとホテル」で特別宿泊プラン
早春の奥多摩・小菅村で「五感をひらく、源流への道」
JR青梅線に揺られていると、車内でチェックインのアナウンスが流れた。そう、この電車を降りた奥多摩駅がホテルのフロントなのだ。
JR東日本と地域の事業創出を手がける「さとゆめ」の共同出資会社「沿線まるごと株式会社」は、JR青梅線の無人駅の駅舎等をホテルのフロントやロビーとして活用し、沿線の空き家をホテル客室に改修して沿線のまち全体をホテルに見立てる「沿線まるごとホテルプロジェクト」を2021年より実施している。2月4日から22日まで、第2回目となる特別宿泊プラン「奥多摩発 五感をひらく、源流への道」が発売された。
改札を出ると、今回の宿泊ホテル「NIPPONIA 小菅 源流の村」のホテルドライバーで、お散歩ガイドの佐藤英敏さんが温かく迎えてくれる。佐藤さんをはじめ、このホテルのスタッフは全て村人。「700人の村がひとつのホテルに」というコンセプトで村全体でおもてなしをする。道中の車内では佐藤さんが住民ならではの視点で地域の歴史や見どころを案内してくれた。
愉快なガイドを聞きながら、多摩森林セラピーロード「香りの道・登計トレイル」に到着。ひのきのウッドチップが敷き詰められたその道は、森の清々しい香りと柔らかな感触で心地よい。途中、ルーペで木の葉やコケを観察したり、木に囲まれたウッドデッキで瞑想や深呼吸をして自然と心がつながり、森林の癒し効果を体感できる。
いよいよ「NIPPONIA 小菅 源流の村」へ。「大家」の愛称で親しまれる築150年の合掌造りの古民家は、養蚕を営んでいた「細川邸」の住居で長い間空き家となっていたが、村で一番格式が高く、村人の想い出が詰まったこの邸宅を、2019年8月にホテルとして新しい命を吹き込みオープンした。
ホテル内は、古民家ならではの太い柱や梁などをうまく活かし、重厚だがどこか懐かしい雰囲気とモダンなインテリアやアートが見事に調和した、ゆっくりと時を過ごしたくなる空間。筆者が宿泊した「クリエイターズ・ツイン」は、大きな窓に面した書斎やハンモックなど遊び心もあり創作意欲が掻き立てられる。
夕方には、中庭で焚き火を囲んで宿泊者同士が交流を楽しみ、そして旅のハイライトとなる夕食。レストラン「源流懐石 24sekki」では、地元食材のガストロノミーを味わう。腕をふるう鈴木啓泰シェフは、自ら奥多摩の山を歩き、その美しい苔や森、多摩川源流の清らかな水などからインスピレーションを得て今回のメニューを考案。また、青梅の酒造「小澤酒造」にも協力を仰ぎ、地酒「澤乃井」とのペアリングも楽しめる。中でも忘れられないのが、「甲州地鶏の味噌漬け 松葉焼き」。皿の上は、まさに森のなか。奥多摩の木の葉や枝で彩られ、五感を使ってお料理を味わってほしいと、鈴木シェフ自らが削ってつくった木のフォークで頂く。想像の上をいく料理はぜひ現地で味わってほしい。
当プランは首都圏からの顧客を中心に45組の申込があり、完売した。参加者からは「都心からすぐの自然の中で普段とは違った時間の過ごし方ができた」、「お料理やお酒も五感で楽しめた」などの声があった。都心から少し足を延ばせば、そこには素晴らしい自然や食、暮らしなど本来の「豊かさ」を見つけることができるかもしれない。