田村酒造内を流れる田村分水とともに福生市内を潤してきたのが熊川分水だ。五日市街道にある牛浜橋から200㍍ほど下った熊牛稲荷付近に熊川分水口はある。ここから周辺の家々の間を流れ、熊川神社の脇を抜けて石川酒造の敷地内をめぐる。
熊川付近は多摩川の左岸10㍍を超える崖線上の集落で、取水が困難だった。名主で造り酒屋だった石川家は、住民の飲用水と灌がい用水を確保するため、玉川上水から水を引き込む熊川分水の建設を計画した。1 8 9 0(明治23)年1月、念願の熊川分水が完成。以後、村民の生活を支え続けた。同酒造内では田村酒造と同じように酒造りのための精米に水車の動力を利用した。敷地内を流れる分水は美しく、今は酒造見学やレストランを訪れた人たちにやすらぎを与えている。
熊川分水周辺は、かつてホタルが数多く生息した。夏になるとまばゆいばかりに飛び交い、美しい光景は多くの人の心にふるさとの思い出を刻んだ。今は近くにあるホタル公園で養殖が行われ、地域住民が力を合わせて「ホタルまつり」を開催し、毎年多くの見物客でにぎわいを見せている。