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創業200年家訓「丁寧に造って丁寧に売る」守る

地域

東京の酒として海外見据る

田村酒造場 福生市

文政5(1822)年から福生市福生で日本酒を造っている田村酒造場(田村半十郎社長)が創業200年を迎えた。敷地内の井戸に湧く、秩父奥多摩山系の伏流水は中硬水で酒造りに好適。その水がある喜びから「嘉泉」を酒銘にした。伝統を守る傍ら、同社の気風である〝進取の精神〞の下、品質向上と新しい酒の醸造にも意欲的に取り組んできた。そして近年、16代目当主の田村社長(63)の視線は、地元の多摩から東京、そして海外をしっかりと見据えている。200年の今年は記念酒発売や記念誌発行、11月の蔵開きなどで祝い、創業以来の家訓「丁寧に造って丁寧に売る」を改めて確認する1年になる。

床の間に掛かる創業者の勘次郎と酒の神様の絵を前に200年の節目に気持ちを新たにする田村社長=母屋の奥座敷で

田村家は福生村を切り開いた旧家の1 軒で、村の政治一般を司る名主などの村役を勤めた。玉川上水から取水した屋敷内を流れる田村分水は、地域の生活用水や水田、畑を潤す灌漑用水として使われてきた。

酒造業は9代目の勘次郎が創業した。当時の江戸は華やかな文化文政期を迎え、急速に発展していた。飲食の需要が拡大し、主流だった上方(関西)で生産する“ 下り酒” に代わるものとして幕府は“ 江戸地廻り酒”の生産を奨励した。名主だった田村家にも勧めがあって当然だった。

勘次郎は近在の酒造家・酒店と店内関係を結び、元締めとして酒造技術や経営ノウハウの提供を図り、酒造体制の基盤をいち早く整えた。酒造りにおいては家訓「丁寧に造って丁寧に売る」を精神とし、しっかりと目が行き届く1500石前後の造り高を守り続けた。経営は堅実を基本にしてきた。

 酒造場史に輝くのが先代の15代半十郎が産み出した「まぼろしの酒 嘉泉」。本来は一級酒となる高精白の本醸造を二級酒として販売することは画期的で、昭和47(1972)年に発売され瞬く間に看板商品となり、現在も販売量の3割を占めて同社の屋台骨を支えている。

平成2(1990)年から行われた蔵の改築も一大事業だった。先代の父親と、当時は専務だった田村社長は年商の2倍をかけ、建物を整備し、温度管理のできる設備を導入。その背景には、醸造の担い手を高齢化が進む新潟県の越後杜氏や岩手県の南部杜氏から地元西多摩出身の蔵人に切り換えていくという必要性もあったからだ。

全銘柄の品質向上をめざした蔵づくりと人づくりが一段落したのが平成16(2004)年頃。田村社長は、自前の蔵人になった記念の日本酒の醸造に取りかかる。そうしてでき上がったのが「田むら」だ。

「すべて手搾りで、手間のかかる瓶びんかん燗という火入れ方法を採用した純米吟醸酒です。そこまで気合いを入れたので、名前も蔵の威信をかけて、社名を冠しました。販売は問屋を通さず小売店に任せています」

良い酒は和から生まれ、和を生む。当主の酒造りへの思いと蔵人たちの技術の協働といっていい。これをさして、田村社長は〝和醸良酒〞という言葉で表現する。

近年、日本酒は海外で人気を高めている。田村酒造場は平成27(2015)年、その名も「東京和醸」という純米酒を発売した。国内はもとより外国へ東京土産としても通用することを狙った。パッケージには東京の街並みと桜がデザインされ、一見するとワインのようだ。

これまで、同社の酒は多摩の酒という位置づけだった。しかし、これを機に田村社長は出荷の箱なども、全部を東京の酒に改めた。いまや〝東京〞そのものが外国人にとっては一流のブランドだからである。

平成28(2016)年4月12日は田村酒造場にとって誉の1日となった。当時の天皇、皇后両陛下を酒造場にお迎えしたことだ。酒造蔵で酒造りの手順などの説明を受けられ、すぐそばを流れる玉川上水にも足を延ばされている。 「大変光栄なことです。ただ私は、酒蔵というより田村家に行幸されたと思います。というのも、福生市に来られるのは初めてのこと。おそらく、歴史や産業を知るために当家を会場として選ばれたのでしょう」

 田村家の歴史は古く、古文書では160 0 年後半に先祖の名前が確認されるという。明治33(1900)年に建てられた母屋の奥座敷の床の間には、祭や神事のおりに狩野派の絵師が描いた勘次郎と酒の神様の絵が飾られる。長押には額装された松平定信直筆の「對鴎」の書が置かれている。その書は大吟醸の酒銘に使われている。

「對鴎」の意は「鴎に対す」。捕えんとすれば逃げる鴎も、あるがままに対すれば自ら寄るという。田村社長は「果てなき酒造りの高み。移りゆく時代の潮流。追い求めるものは数あれども、家訓『丁寧に造って、丁寧に売る』を守り、酒に向き合う一心を込めて酒銘としました」と話してくれた。

 

 

展示コーナーでは天皇、皇后両陛下を酒造場にお迎えした時の様子が分かる

田村酒造場〒197-0011 福生市福生626042 ‐ 551-0003 F A X : 042-553-6021営業時間 : 8:30 ~ 17:00定 休 日 : 日・祝(冬季を除き月曜日休業あり)

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