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廃校利用 田島征三の壮大なアート空間

コラム

元日の出町在住の絵本作家 十日町市 暑秋紀行

9月9日から3日間、新潟県南端の十日町市周辺を訪れた。1カ月遅れの夏休み。ホテルで温泉に癒され、妻つま り有の新鮮な食材を使ったバイキング料理を楽しもうと思った。世間は米不足、運よく新米を買い求めたいとも願った。

関越道塩沢石打インターを降りると、一面に水田風景が広がる。驚いたのは黄金色の稲穂の多くが横倒しになっていたこと。大雨と台風の影響だった。「少し時期も早いし、米の買い出しはだめかな、米不足も長引くのかな」と思った。

ホテルのチェクインにはまだ時間があった。検索で見つけたのが「鉢&田島征三絵本と木の実の美術館」。絵本作家の田島さんが日の出町に住んでいたときに話を伺ったこともあり、懐かしさから同美術館に向かった。地元では通年で実施される「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ」の秋のプログラムが開催されていた。

2000年から始まった世界最大級の国際芸術祭は、アートを媒介に里山に内在する価値を掘り起こし、その魅力を世界に向け発信。地域再生の道筋を築こうというものだ。

さまざまな生きものが作品となって校舎の中を飛び回る

さまざまな生きものが作品となって校舎の中を飛び回る

同美術館はこの芸術祭に関連し、09年に誕生した空間絵本美術館。十日町市の鉢集落の中央に残る旧真田小学校の木造校舎を利用。さまざまな生きものが作品となって校舎の中を飛び回るように展示されていて、田島征三の壮大なアート空間が楽しめる。

田島さんの新作「オレの歌をきいてくれ〜水の女王が創った輪舞曲(ロンド)」と、コンセプト本である「オレのうたをきいてくれ!」(888ブックス刊)が展示されていた。

田島さんは1969年、絵本『ちからたろう』で第2回BIB世界絵本原画展金のりんご賞を受賞し、注目を集めた。その後、日の出町に移り住み、ヤギやチャボを飼い、畑を耕す生活をしながら創作を続けた。

黄金色の稲穂の多くが横倒しに

黄金色の稲穂の多くが横倒しに

絵本『ふきまんぶく』『とべバッタ』や、『ほら いしころがおっこちたよ ね、わすれようよ』などを創作した。だが、1990年代、東京たま広域資源循環組合が管理する日の出町の山中に二ツ塚第2処分場建設計画が持ち上がると、既存の谷戸沢処分場で汚水漏れ疑惑が発覚。町を二分するゴミ処分場建設反対運動が起こり、田島さんは妻の喜代恵さんとともに運動に奔走した。

こうした中、胃がんを発症。日の出町を後にして、転地療法のため伊豆高原に移住した。その後は、木の実を使った作品や絵本を創作。木の実や流木などによる作品群を全国で発表した。

同美術館を見学していると、テレビの旅番組の取材クルーに遭遇した。旅人は女子レスリングの浜口京子さん。作品を熱心に見学していたのが印象的だった。

谷戸沢処分場の汚水漏れ疑惑から30数年。多摩地域をはじめ全国各地でPFAS汚染が問題になっている。時代はめぐるのだろう。

コラム執筆者

編集室システムU

西多摩地域を中心とした東京25区管内の政治、行政、経済社会、トピックスなどを配信する「東京25ジャーナル」の編集室。
“地域の今”を切り取ります。

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