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コラム

思わぬ侵略者

 2021年3月に発刊された「東京都レッドリスト(本土部)2020年版」において西多摩地域のアブラハヤは絶滅(EX)、野生絶滅(EW)に次ぐ非常に高いランクである絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定。河川の中流や上流域で普通に見られる魚ですが、多摩川の上流域ではほぼ生息が確認できなくなりました。原因は西日本に分布するタカハヤの定着。なぜ多摩川に定着したのでしょうか?

 

多摩川には「御用鮎」、「献上鮎」として良質のアユが豊富に生息していましたが、羽村取水堰の建設により天然遡上が遮られ、明治時代から大正時代に多摩川上流のアユは減少。東京帝国大学教授の石川千代松博士は大正2年に多摩川の上流域(青梅市釜ヶ淵付近)で琵琶湖産アユの試験放流を試み、大正13年には京都府の清滝川に12300尾を放流して成功をおさめ、それ以降はダムや堰により海からの天然遡上が途絶えた河川でもアユ釣りが可能になりました。

しかし後年予測もしなかった事態が。琵琶湖での捕獲時に他の魚類も混獲されて全国の河川に放流されたために、アユが放流された河川では元々生息していない魚類が次々と現れるようになりました。

国立環境研究所の西田一也博士によるmtDNA解析から、秋川合流点より上流の多摩川では在来種であるアブラハヤから移入種のタカハヤにほぼ置き換わり、そのタカハヤは近畿東地方、東海西地方由来であることが判明し、アユの放流(現在も琵琶湖産、愛知県産のアユを放流)に伴ってタカハヤが侵入した可能性があると示唆されています。

多摩川ではタカハヤの他に、スゴモロコ(琵琶湖固有亜種)も近年侵入域を拡大しており、中流域でも頻繁に姿を現すようになりました。私たちは水産資源の増殖・保護を目的として公的に行われてきた放流行為が思わぬ侵略者を生み出し、地域の生態系を破壊している事実を認識すること、そしてこの先は有用な水産資源のみならず、その地域に元々あった河川生態系を復元・保全する視点を持つことが大切です。

コラム執筆者

宮田 浩

エコツーリズム・グリーンツーリズムなどに携わり現在は年間を通じ、御岳や奥多摩などを中心としたツアーガイドなど数多く行う、川と森を案内するスペシャリスト。

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