多摩川では江戸時代に「御用アユ」として将軍家に上納されるほど、良質の天然アユが多く漁獲されていましたが、高度経済成長期が到来した1960年代に多摩川から姿を消しました。ところが1990年より天然アユの遡上数が徐々に増えていき、1993年には100万尾を超えて一大ニュースとして取り上げられました。なぜ多摩川のアユは復活したのでしょうか?
「アユの復活=水がきれいになったから」ということがまず頭に浮かびますが、復活の要因はそれだけではありません。アユは河川の中下流域で秋に産卵を行い、ふ化した仔魚は流れに乗って海に下ります。冬の間は海で動物プランクトンを食べて大きくなり、翌年の初夏には河川を遡上して川底の石に付着した藻類を食べて成長します。秋を迎えると産卵のために再び川を下り一生を終えます。このように一年で川と海を行き来して生活をしています。
ところが1950年頃より、多摩川に設置されていた取水堰が洪水でも流失しないようにコンクリート製の落差のある高い取水堰に改変されてアユの移動を妨げるようになり、川と海を自由に行き来することができなくなりました。1992年に建設省(現国土交通省)が「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」のモデル河川一号として多摩川を指定し、魚類の移動を妨げる河川横断工作物(取水堰や床固め等)の魚道の新設や改築を行いました。
その結果、東京湾から多摩川を遡上するアユが劇的に増加し、東京都島しょ農林水産総合センターが行った2012年の調査ではアユの遡上量は1000万尾を超え、多摩川では青梅周辺、支流の秋川では檜原地区までアユが遡上していることが確認されています。