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コラム

人間に翻弄されるニホンジカ

御岳山で目撃されたニホンジカ

御岳山では元々生息していなかったニホンジカ(以下、シカ)の目撃が数年で非常に多くなっています。それに伴いレンゲショウマ、カタクリやタカオヒゴタイといった希少種へのシカによる採食が目立つようになりました。全国的に見るとシカの影響は1990年代より顕著に現れ、地域植生の減少、農作物や植林地の苗木への食害、植生消失による土砂流出や山腹の崩落と様々な被害が出ています。

森林伐採(エサとなる草本植物や樹木の幼木の増加)、温暖化による積雪量の減少(冬季の仔ジカの死亡率の低下)、天敵の不在(主にニホンオオカミ)、狩猟圧の低下、そしてこれらに加えて農山村地域での農林地の放棄に起因するシカのエサ場と隠れ場の増加といった要因が複合的に関わり、シカは個体数を増加させていると示唆されています。

シカは全国各地で様々な問題を起こしていますが、過去には激減した歴史も。重要なタンパク源と同時に農作物を食い荒らす害獣として狩猟の対象とされたため、明治時代には著しく減少し、1892年には全国的に狩猟規制が設けられるほど個体数を減らしました。しかし狩猟は続けられ、さらに戦後の混乱期の密猟とアメリカ占領軍によるハンティングによりシカは壊滅的となったことから、全国のいくつかの地域では全面的な捕獲禁止措置が取られました。このシカ保護施策が効果を現し、1980年代から全国各地では個体数を回復しました。

シカの食べ痕(左から幼木の枝折り痕、カタクリ)

このような過去の人間の乱獲によるシカ減少の経緯が説明されず、テレビをはじめとするメディアやSNSでは単に「シカが希少植物や農作物を喰い荒らす」、「シカ=害獣」として伝えられる機会が多くなりました。現在の社会・環境問題に通ずるものですが「現在を知ること」と共に「過去を知ること」、それを基にした「問題の本質を捉えた的確な行動」が何よりも大切と私は思います。

コラム執筆者

宮田 浩

エコツーリズム・グリーンツーリズムなどに携わり現在は年間を通じ、御岳や奥多摩などを中心としたツアーガイドなど数多く行う、川と森を案内するスペシャリスト。

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